看取りの仕事内容とは?病院や患者さんにとっての看護師の役割とは
病院で働く看護師は、「患者さんの看取り」を絶対に経験することになります。
看取りとは、患者さんが「死」を迎えるそのときに立ち合い、看護することです。
息を引き取る瞬間のケアや、そのあとの御遺体の処置を看護師が対応します。
ときには、患者さんの家族の気持ちを受け止める必要もあります。
具体的な仕事内容や、理想の看取り業務について解説していきましょう。
看取りの仕事内容とは?
「看取り」は、患者さんが息を引き取る瞬間を看護することです。
ドラマや映画でも目にする「○時○分、お亡くなりです」というシーンのような「死ぬ瞬間」は、基本的に医師が判断します。
看護師は、この瞬間を医師とともに迎え、御遺体の処置をします。
さらに、ご家族への配慮もしなければなりません。
そしてこの対応こそが、看護師にとってもっとも大変な仕事と言えるでしょう。
ご家族にも考慮しながら、さまざまな行動をしなければなりません。
例えば「娘に会わせたいから亡くなった状態のまましばらく待っていてほしい」と言われたとしても、その要望には応えられません。
それは「死後硬直」が始まるから。
死後硬直は、2?3時間で起きはじめ体液が流出することからあらかじめ体液がでる部分をふさがなければいけません。
死後の処置について、「汚い」と思う人もいるかもしれませんが、こうした看取りは非常に重要な仕事であり、患者さんのために看護師ができる最後の役目です。
看取りの役割とは?
ご家族の死を目の前で見るショックはとても大きく、精神的な負担にもなるためご家族の看取りを避けたいと考える人もいるでしょう。
看護師は、患者さんだけでなくご家族についても、静かに最期を受け入れられるようサポートするという重要な役割を担っています。
そのためにも日常的に、担当のターミナルの患者さん、そしてご家族と、信頼関係を築きましょう。
看取りの具体的な仕事内容とは?
モニターの管理
看取りにおいては、モニターの管理が非常に重要です。
看取りの多くは病棟で行いますが、だからといって常に医師がついているわけではなく、ターミナルの患者さんの状態を見続けることはできません。
そのため、看護師がモニターを見ながら酸素濃度をよく確認する必要があります。
モニターの数値が異常なときは医師に報告し、分単位で変わる状態を記録して患者さんの状態をよく見ることも大切な業務です。
バイタルサインを測る
患者さんは、いつどのように息を引き取るのか分かりません。
家庭では「気がついたときにはもう息をしていなかった」ということもあると思いますが、病院の場合そうはいきません。
看護師や医師、ご家族に見送られることが理想ですから、いつそのときが訪れても対応できるよう、バイタルサインの測定をします。
測定を怠ると、もしもの時にご家族が間に合わなくなる可能性もあり、「家族に会えないまま息を引き取る」という事態にもなりかねません。
患者さんの御遺体の処置
大規模の病院では経験しないかもしれませんが、御遺体は清拭し、お化粧を施すなどの処置が必要になります。
最後に着てほしい服があるかご家族に確認し、服を着せて鼻・口・肛門・耳を綿花やグリセリンで塞ぎます。
そして、ご家族に葬式場への連絡を頼み、引き取って頂きます。
ご家族への連絡や確認は、看護師の仕事です。
看護師の仕事の流れ
医師による死の確認
患者さんが亡くなったとき、看護師はまず医師に死亡の確認をとってもらいます。
医師からの指示がなければ、仮に心臓が止まっていても処置はできません。
そして、医師がご家族に患者さんの「死」を伝えたことも確認します。
医師と同席して患者さんのそばで確認したり、ナースステーションに戻って確認したりと、やり方は色々あります。
確認できたら改めて患者さんのもとへ足を運び、点滴や傷の処置をはじめます。
斎場や衣服の確認
続いて、ご家族への確認もしなければいけません。
確認する内容のひとつが「斎場をどこにするのか」。
そして斎場の連絡も、ご家族に頼みます。
さらに、宗教面も考慮しながら、どのように死後の処置をしたいかご家族に確認をとります。
浄土宗や浄土真宗の場合は、喉が乾かないように口に湿らせたガーゼをいれるなど、それぞれのご要望・ご意向をお聞きしてください。
その後、最後に着てほしい服について確認し、家族のご要望も踏まえながらご遺体を清拭し、服を着せます。
ここで重要なのは、着せられない服については正直に伝えることです。
拘縮が進んでいくと、着せられる衣服は限られていきます。
ご家族の希望をただ聞くだけでなく、ご遺体の状態についても伝えてください。
お見送り
ご家族がご遺体とともに、ご自宅や斎場へ移動する際のお見送りも、看護師の業務のうちです。
ご家族、そしてご遺体に敬意を払い、ご家族の車が駐車場から出て行くまで、頭を下げて見送りましょう。
中には「頭を下げることに意味はあるのか」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、もし業務を終えた医師や看護師がその場からさっさといなくなっていたら、ご家族はどう感じるでしょうか。
患者さんやご家族に、最後に嫌な思いをさせないためにも、駐車場を出て行くまでしっかりとお見送りしましょう。
看取りを通じて関わる人たち
看取りは、看護師だけで行うことではなく、たくさんの人の協力が必要です。
それでは、看取りでは具体的にどのような人との関わりが必要なのか、ご紹介していきましょう。
医者
看取りをする上で絶対に必要なのが「医師」の存在です。
それは、患者さんの死は医師にしか判断できないためです。
例えば、誰が見ても「亡くなっている」と判断できるような状態であっても、看護師の判断のみで、ご家族に「死」を伝えてはいけません。
看取り看護においては、医師との協力が必要不可欠なのです。
患者さんのご家族
看取りにおいて、特に神経を使うのが亡くなった患者さんのご家族の対応です。
家族が亡くなるという大きなショックを受けている相手に、事実を受け止めてもらい、斎場の連絡、服の準備などを行ってもらうよう、看護師から伝えなければなりません。
事実を受け入れられず怒り出したり、斎場や他のご家族への連絡がままならなくなる人もいます。
しかし、相手がどんな状況であろうと、やらなくてはならないことをきちんと伝え、動いてもらう必要があります。
斎場の方
ご遺体の処置やご家族への指示が終われば、ご遺体を斎場の方に引き取ってもらいます。
しっかりと引き継ぎをして、ご遺体を移動させることも看取り看護の業務です。
看取り看護師の給料は?
看取りは看護師が向き合う業務の一つであり、看取りで心身にストレスを受けても、お給料に影響することはありません。
夜勤のように手当がつくわけでもなく、特別な業務として扱われることはないのです。
だからこそ「看取りは嫌」、「絶対に看取りはやりたくない」と思う看護師も少なくありませんが、その場合は無床の診療所やクリニックでの勤務が適切です。
看取りの仕事で特に大変なこと
ご家族の前で泣くことができない
入退院を繰り返し、長いあいだ面識のある患者さんとは、自然に仲良くなっていくこともあるでしょう。
私も新人看護師の頃、長く担当していた患者さんが亡くなってしまい、ご家族の前で涙をこらえきれなくなってしまったことがあります。
そのときは、看護師長に呼ばれ「看護師が泣くことは、大切な人が亡くなり悲しんでいるご家族を、さらに悲しませることになる」とお叱りをうけました。
もちろん悲しい瞬間ではありますが、ご家族のためにも涙はこらえなければいけません。
お怒りも受け止める
ときには、ご家族からお叱りを受けることもあります。
とある看護師さんは、精神科に勤務していたとき担当の患者さんが自殺をし、ご家族から「お前が殺したんだ」と言われたそうです。
もちろんそんな事実はありませんが、大切な人の突然の「死」を受け入れられない場合、ご家族が看護師に怒りをぶつけることもめずらしくありません。
そして看護師は、ご家族の行き場のない感情についても、受け止めなくてはならないのです。
ご家族が良い人とは限らない
患者さんや自ら死を選んだ方と、ご家族の関係は千差万別ですから、中には「死んでくれてよかった」と言う人もいます。
そして看護師は、それに対し自分の思うことを勝手に伝えることはできません。
悲観的になりすぎることも、怒りを覚えることもなく、淡々と業務をこなす必要があるのです。
看護師が看取りをできるようになるには
看護師の経験年数について
看取りは神経を使う業務ですから、新人看護師がたった一人で任されることはありません。
私の経験では、3年ほど経った頃から一人で看取りの看護に入るようになりました。
仮に夜間に看取りを行う事になった場合でも、一人で十分に対応できるよう、おおむね3年程度の経験を積む必要があります。
必要なスキルや資格について
看取りでは、特別なスキルや資格は必要ありません。
もちろん看護師の資格は要りますが、看取りは書物で学んでいくものではなく、自分で経験しながら理解していくものです。
実際に多くのご家族と接し、多くのご遺体の処置をしながら、看取りの看護について学んでいきましょう。
多くの患者さんを見送る中で、看護観が揺らぎ看護師という職業に疑問を感じることもあるかもしれませんが、看護という仕事において、看取りは避けては通れません。
経験者が語る看取りの仕事
経緯について
私の場合、勤務先の病院が看取りを行っていたため、看取りの看護は避けて通れませんでした。
中には病棟と違い、看取りの看護を専門に行っている「ホスピス」と言う病院もあります。
癌の患者さんなどが入り、痛みの緩和を優先しながら、できるだけ楽に死を迎えるための場所です。
はじめの頃の抵抗感について
はじめはやはり抵抗があり、死を迎えたばかりのご遺体に接するにあたっては、率直に「怖い」と言う感情が湧き上がりました。
しかし、回数をこなすうちに自然と慣れていきます。
「死」に慣れることは必ずしもいいことではないという意見もあると思いますが、看護師を続けていく上では、慣れも必要であると私は思っています。
看取りの理想と現実について
私にとって理想的な看取りは、息を引き取る瞬間、ご家族が近くにいることです。
しかし、いつでも理想通りに行くわけではなく、患者さんの様態が急変した場合はご家族が間に合わないことも多々あります。
また、そもそもご家族が「会いたくない」と考えていることもあります。
それを踏まえた上で、ご家族にとって理想に近い看取りを行うことも、看護師の業務です。
本当の「理想の看取り」とは
理想の看取りとは、看護師ではなく、あくまでご家族や患者さんの「理想」を叶えることです。
そのためにもご家族や患者さんがどうやって送り出したいのか、どうやって送り出されたいのかを知っておく必要があります。
しかし、事前に聞くことは誰にもできませんので、死後の処置時にスマートに確認しましょう。
とは言え、理想の看取りを実現することは難しいものです。
看護師の何気ない言動や信頼関係が、理想の看取りから遠ざかる原因になることもありますので、理想の看取りができるように、入院中から患者さんやそのご家族と信頼関係を築いておきましょう。
まとめ
多くの人の思いが交差する看取りの世界は、非常に奥が深いです。
看護師は、ご家族の悲しい思いを助長しないように努めることでいい看取りを目指しましょう。
また、看取りでは人の死に直面します。
病院では病気を治療するために手を尽くしますが、治療の甲斐なく死を迎えることも決して少なくありません。
看護師として働く上では、人の死に直面しなければならないということもよく理解しておきましょう。
また、人の死をまじかに見ることで、精神状態にも影響があるでしょう。
担当の患者さんが亡くなってしまったときには、自分の看護がいけなかったのではないか、別の看護をしていれば死ななかったのではないかと考えてしまうこともあります。
しかし、看護師の任務はあくまで「医師の治療のサポート」であり、自己判断で治療に携わることはできません。
看護師の仕事は、すべての人が必ず迎える「死」とまっすぐ向き合える、尊い仕事です。
自分の力が、人が死ぬときにも人を救うときにも求められることを実感すれば、看取りの看護に対する印象も変わるのではないでしょうか。
治療だけでなく、看取りもたくさん経験を積んでいくことで、魅力的な看護師になれるはずです。